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口腔健康状態と学力には関係がある!?

口腔健康状態と学力には関係がある!?

口腔健康状態と学力には関係がある!?― 歯磨き習慣から見える「学びの土台」

「うちの子、最近集中力が続かないみたい…」 そんなお悩みを、実は「歯」が原因かもしれない、と考えたことはありますか?

勉強のやる気や集中力というと、睡眠時間や生活リズム、勉強法などを思い浮かべる方が多いと思います。

でも近年、海外の研究では「口の中の健康状態」や「歯磨きという毎日の習慣」が、子どもの学力や学校生活に影響しているというデータが、複数報告されています。

今回は、塾と歯科医院が協力してお伝えしたい「口腔健康と学力の関係」について、実際の研究データをもとにわかりやすくご紹介します。

前半では「歯や歯ぐきの状態そのもの」と学力の関係を、後半では「歯磨きという習慣」と自己管理能力・学力の関係を取り上げます。


第1部:虫歯や歯の痛みは、学力にどう影響するのか

虫歯や歯の痛みがある子は、成績が下がりやすい?

アメリカの研究チームが、これまで発表された多くの研究データをまとめて分析した結果があります(2019年、米国歯科医師会雑誌に掲載)。

世界中の子ども約14万人分のデータを集めて調べたところ、

口の中の状態が良くない子どもは、そうでない子どもに比べて「学業成績が振るわない」確率が約1.5倍、

「学校を欠席しがち」になる確率も約1.4倍高いという結果が出ました。

さらに、ロサンゼルスで約1,500人の子どもを対象に行われた調査(2012年)では、

歯の痛みを感じている生徒は、痛みのない生徒に比べて成績(GPA)が低くなる確率がおよそ4倍にもなったと報告されています。

歯の痛みを我慢しながら授業を受けるのは、大人でもつらいものです。子どもにとっても、集中力を大きく奪われる要因になっているようです。

「痛くて休む」だけが理由じゃない

口の中のトラブルが学力に影響する理由は、単に「痛くて学校を休む」というだけではありません。

研究者たちは、次のようなメカニズムを指摘しています。

  • 痛み・不快感による集中力の低下:授業中も気になって、勉強に身が入らない
  • 睡眠の質の低下:夜間の歯の痛みで、ぐっすり眠れない
  • 自己肯定感への影響:口臭や歯の見た目が気になり、発言や交友関係に消極的になる
  • 生活リズム全体の乱れ:仕上げ磨きの習慣がない家庭では、生活習慣そのものが崩れがちな傾向も

つまり口腔の健康は、「痛いか痛くないか」だけでなく、日々の集中力や心の状態、生活のリズムにまで、

じわじわと影響を及ぼしている可能性があるのです。

「口腔ケア=学力アップの魔法」ではない

ここで大事な注意点があります。

研究の中には、「口腔の健康と成績の関連は、実は家庭の経済状況などほかの要因によるところが大きく、

口腔ケアだけを見た場合の直接的な影響は、はっきりしない」とする、より慎重な立場の研究もあります(2018年のレビュー論文など)。

つまり「歯を磨けば成績が上がる」という単純な話ではなく、

正確には「口腔の健康は、子どもが安心して学びに向き合える環境の“土台のひとつ”である」と捉えるのが、

研究データに忠実な理解の仕方だと言えます。

小さい頃の口腔ケアが、その後の学力に関係するというデータも

アメリカ・アイオワ州で行われた研究(2022年)では、

5歳までの間にどのような歯科ケアを受けていたかを記録し、

その後の子どもたちの学力テスト(読解・数学)の点数との関係を追跡調査しました。

その結果、幼児期に虫歯予防のケアや定期的な歯科受診をしていた子どもは、

その後の学力テストで良い点数を取る傾向があることがわかりました。

これは「先に口腔の状態があり、後から学力の結果が出ている」という時間の流れがはっきりしているデータなので、

単なる偶然の一致ではなく、実際に何らかの関連がありそうだと考える根拠のひとつになっています。


第2部:歯磨き「習慣」そのものが持つ意味 ― カギは自己管理能力

第1部では「歯や歯ぐきの状態」に注目しましたが、ここからは少し視点を変えて、「毎日歯を磨くという“習慣”そのもの」に注目してみます。

「歯磨きをきちんとする子は、勉強も自分からきちんとやる」という感覚を持つ先生や保護者の方は少なくありません。

これは単なる印象論のように思えるかもしれませんが、実は心理学の研究をたどっていくと、この感覚を裏づけるような知見がいくつも見つかります。

自己管理能力が、実は学力を大きく左右する

まず押さえておきたいのが、「自己管理能力(セルフコントロール)」そのものが学力に強く関わっているという研究です。

2005年に発表された有名な研究では、中学生を対象に、自己統制の高さと知能検査の結果、

どちらが成績をよく予測するかが比較されました。

その結果、自分の衝動をコントロールし、コツコツと努力を続けられる生徒のほうが、

頭の回転の速さよりも、成績と強く結びついていることがわかりました。

さらに2011年、ニュージーランドで生まれた子どもたちを対象にした大規模な追跡調査では、

子ども時代の自己管理能力の高さが、その後の学歴や、大人になってからの収入、

さらには心身の健康状態までも予測することが示されました。

親や先生、本人による評価など、さまざまな方法で測定した「自分をコントロールする力」が、その後30年にわたる人生に影響を与えていたのです。

つまり「自分で自分を律する力」は、単なる性格の問題ではなく、学力や将来の生活にまで長く影響を与える、非常に重要な力だということが、研究によって裏づけられています。

歯磨き習慣は、その「自己管理能力」の現れかもしれない

では、歯磨きはこの自己管理能力とどう関係しているのでしょうか。

ある研究では、歯磨きの頻度や歯間ケア、定期的な歯科受診といった口腔ケアの行動が、

几帳面さ・誠実さ(いわゆる「コツコツ型」の性格特性)や、自分にはできるという自信(自己効力感)と関連していることが報告されています。

面倒に感じることでも、将来のために今きちんとやっておく、という行動パターンが、歯磨きにも勉強にも共通して表れているのかもしれません。

また、貧困環境で育つ子どもを対象にした追跡調査では、歯磨きという習慣が、

子どものレジリエンス(困難を乗り越える力)を守る役割を果たしている可能性が示されています。

日々の小さな習慣を積み重ねることが、生活全体を整える力につながっている、という見方です。

ただし、ここは正直にお伝えしたいのですが、「歯磨きの習慣そのものが自己管理能力を鍛える」のか、

それとも「もともと自己管理能力が高い子が、結果として歯磨きもきちんとする」のか、

その因果関係についてはまだ研究の途上にあります。専門家によるレビュー論文でも、この点の証拠はまだ弱く、今後の研究が必要だとされています。

鍵を握るのは、やはり「親の関わり方」

保護者の皆さまが特に気になるのは、この部分かもしれません。

研究では、家庭環境が子どもの歯磨き習慣にはっきりと影響することが示されています。

ある調査では、親自身の歯磨き習慣が、子どもの口腔ケアの行動や状態を左右する重要な要因であることが報告されています。

親が良い口腔ケアの知識と態度を持っていると、それが子どもの行動にも反映されやすいのです。

さらに、親が子どもの仕上げ磨きをきちんと見守れるかどうかは、

親自身の「計画性」「自己効力感」「行動をコントロールする力」といった、

いわば親自身の自己管理能力に左右されることもわかっています。

つまり、子どもの歯磨き習慣の背景には、家庭全体の自己管理の文化のようなものがある、と言えそうです。

また、ひとり親家庭や再婚家庭で暮らす子どもは、

定期的な歯磨きをする割合が低くなる傾向があるという国際的な時系列データもあります。

これは、家庭の状況によって、大人が子どもの生活習慣に関わる時間や余裕が変わってくることの表れだと考えられます。


まとめ:口腔ケアは「学びを支える土台づくり」

今回ご紹介した2つの視点をまとめると、次のようになります。

① 口腔の状態そのものについて

  • 口の中の健康状態が良くない子どもは、学業成績が振るわなかったり、欠席が増えたりする傾向が、複数の研究で報告されている
  • 歯の痛みは、思っている以上に子どもの集中力や心の状態に影響している可能性がある
  • ただし「口腔ケアだけで成績が上がる」という単純な話ではなく、家庭環境なども含めた全体の土台づくりの一部として捉えるのが適切
  • 幼児期からの継続的な口腔ケアは、その後の学力にもプラスの関連が見られるというデータもある

② 歯磨きという習慣について

  • 自己管理能力の高さは、学力にも将来の生活にも、長く影響を与える重要な力である
  • 歯磨きという日々の習慣は、その自己管理能力の「現れ」の一つと考えられる
  • そして、その習慣が育つかどうかには、親の関わり方が大きく影響している

「歯を磨けば成績が上がる」「口腔ケアをすれば頭が良くなる」という単純な話ではありません。

しかし、歯の健康を保つこと、そして毎日欠かさず歯を磨くという小さな習慣を親子で積み重ねていくことは、

痛みなく学びに集中できる環境をつくると同時に、面倒なことでも自分からきちんとやり遂げる力

――将来の学びや生活を支える土台――を育てる練習にもなっているのかもしれません。

勉強のやる気や集中力を支えるためには、勉強法や生活リズムだけでなく、

「歯の健康」「歯磨きの習慣」という意外な視点も大切にしてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

本記事は、以下の研究・論文をもとに作成しました。

口腔健康と学力・欠席について

  1. Ruff RR, Senthi S, Susser S, Tsutsui A. (2019). Oral health, academic performance, and school absenteeism in children and adolescents: A systematic review and meta-analysis. Journal of the American Dental Association, 150(2). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30473200/
  2. Seirawan H, Faust S, Mulligan R. (2012). The Impact of Oral Health on the Academic Performance of Disadvantaged Children. American Journal of Public Health, 102(9). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3482021/
  3. Garg N, Anandakrishna L, Chandra P. (2012). Is there an Association between Oral Health Status and School Performance? A Preliminary Study. International Journal of Clinical Pediatric Dentistry, 5(2). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4148740/
  4. Vasconcelos R, et al. (2018). Oral Health and Its Effect on the Academic Performance of Children and Adolescents.(システマティックレビュー) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29482676/
  5. Wehby GL, et al. (2022). Oral Health and Academic Achievement of Children in Low-Income Families. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35426350/
  6. Vargas CM, et al. (2019). Children’s Oral Health and Academic Performance: Evidence of a Persisting Relationship Over the Last Decade in the United States. The Journal of Pediatrics. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6667186/

自己管理能力・歯磨き習慣・家庭環境について

  1. Duckworth AL, Seligman MEP. (2005). Self-Discipline Outdoes IQ in Predicting Academic Performance of Adolescents. Psychological Science, 16(12). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16313657/
  2. Moffitt TE, et al. (2011). A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(7). https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1019725108
  3. Relationship between dental experiences, oral hygiene education and self-reported oral hygiene behaviour. PLOS ONE (2022). https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371%2Fjournal.pone.0264306
  4. Rogers AA, Willumsen T, Strømme H, Johnsen JK. (2022). Top-down self-regulation processes as determinants of oral hygiene self-care behaviour: A systematic scoping review. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9382055/
  5. Frequent toothbrushing boosts resilience among children in poverty: results from a population-based longitudinal study. (2024) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11316972/
  6. Oral Health Behavior of Parents as a Predictor of Oral Health Status of Their Children. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3664493/
  7. Parental supervision for their children’s toothbrushing: Mediating effects of planning, self-efficacy, and action control. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29349924/
  8. Adolescent Toothbrushing and Its Association with Sociodemographic Factors—Time Trends from 1994 to 2018 in Twenty Countries. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10742657/

※本記事は上記の研究成果を要約・紹介したものであり、個々の論文の全文引用ではありません。より詳しく知りたい方は、各URL先の原論文をご参照ください。